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夢の残り香~日劇ミュージックホールの文学誌

立川談志のミュージックホール体験

立川談志のミュージックホール体験_a0248606_950197.jpg 一九六五年(昭和四十年)刊行の『現代落語論』に著者立川談志は、日劇ミュージックホールのコメディアン泉和助を訪ねた折り、さいわいに話がはずんで、いまだにいろいろとギャグを教わっていると書いている。
 この本が上梓された年に談志は泉和助とともにミュージックホールの舞台に立っている。五月十三日から七月四日にかけての「女は風船そよ風まかせ」で、ほかに月の家圓鏡(現、橘家圓蔵)もゲスト出演している。ヌードはアジジェラ浅丘がトップ、K.みなみ、加茂こずえ、潮チヒロ、高見緋紗子、五月美沙がつづいている。
 噺家の出演は翌年の「乾杯イブとあなたに」に桂歌丸、三遊亭金遊、三笑亭笑三の名前があるが、立川談志の登場は『Nichigeki Music Hall』の公演リストに見る限り一回だけだった。そのときのことについてのちの家元は「共演の泉和助さんのアドバイスもあり、たのしい公演だった」と述べている。
 具体に挙げているのは客席とのやりとりで「寄席ではやれないお客さんとの会話の交流が直接できる。客席に語りかけ、相手の弥次を受けとめることのできる演出だったので、いろいろとお客を相手にし、わたしも相手になったりした」という。ミュージックホールの舞台は噺家に寄席とは異なる貴重な体験をもたらしたようだ。
 客席の反応ではもうひとつこんなことも述べている。
〈ミュージック・ホールに出ておもしろいと気づいたのは、外人客をけなすと日本人の客が喜ぶということだ。とくにアメリカ人にむかって”こんなところへきてるより、ベトナムのことでも考えろ”とか、”日曜日には教会でお祈りでもしてろとか、”わからねえだろうな、いちいち訳してやるヒマがないからね、日本の客のほうが大事だ”てなことをいうと、ワッとくる〉。
 おなじ内容をいっても皮肉な調子ではなく熱く浴びせかける口ぶりのほうが受けがよかったという。客席観察の眼は鋭い。外人客の多い劇場だったからなかには日本語のわかる人もいたはずだが問題にはなってない。もっとも外人を罵倒すると喜ぶというのはコンプレックスの裏返しのようであり、しゃべってみたもののあまりよい気持はしなかったそうだ。
by yumenonokoriga | 2012-05-05 09:11 | 日劇ミュージックホールの文学誌

いまはない日劇ミュージックホールをめぐるコラムです。

by yumenonokoriga
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