「清く正しく色っぽく」

a0248606_11451572.jpg 埼玉県の越谷市立図書館に野口冨士男文庫が開設されている。一九九三年(平成五年)十一月二十二日八十二歳で他界した作家の遺族が、ゆかりの地の図書館に原稿、書簡、蔵書等を寄贈して設けられた。同文庫は所蔵する資料目録を刊行しており、なかに蔵書目録も収められている。その図録・観劇プログラムを見てゆくと国際劇場が取り壊されたあとの歌舞伎座でのSKD(松竹歌劇団)の公演パンフレットをはじめ何冊かのSKDの冊子とともに日劇ミュージックホールのパンフレット「ザ・ミュージックホール」(昭和五十九年三月一日)も架蔵されていてレビューが好きだった作家の面影を伝えている。
 昭和五年のターキーこと水の江滝子が登場したすぐあとあたりからレビューを見始めたという野口冨士男は宝塚とSKDを対比して後者のファンとなったいきさつを次のように述べている。
〈宝塚は歌劇中心で、両手を前にさし出しながら「ああ、王子様ァ」などとやられると、私は鳥肌が立った。そのかわり、歌劇中心だっただけに、歌となると松竹は宝塚の足許にも及ばなかった。越路吹雪が生まれる素因が宝塚にはあったわけだが、歯切れのいい踊りの軽快さでは松竹のほうが上だった。レビューでは踊りが生命だから、私はSKDのファンになった。〉
 野口より九歳下で一九二0年(大正九年)生まれの安岡章太郎は旧制中学のころを回想して、休みには学校の近くの靖国神社でおこなわれているサーカスに行っていた自分と対比して気のきいた連中は日比谷か新宿へレビューか映画を見に行ったと書いている。
 いまのタカラヅカのファンの大多数は女性と見受けるが、しかし華麗で絢爛、あでやかな女の世界をつくるレビューの舞台は男性を魅了しないはずがないし、じじつ野口冨士男や安岡章太郎の回想にあるようにかつては男性のレビューファンが多くいた。
 日劇小劇場の閉鎖を承けてミュージックホールという新しい舞台にどのようなショーがふさわしいか、丸尾長顕をはじめとする運営委員たちが検討をはじめた際に丸尾が参考にしたのも小林一三が創設した宝塚のイメージであり、宝塚の延長線にミュージックホールの像を描こうとした。宝塚歌劇を卒業した男性が鑑賞するショー。ここで宝塚の「清く正しく美しく」は「清く正しく色っぽく」に転換する。
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by yumenonokoriga | 2012-05-15 10:16 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(6)

Commented by NAGY at 2012-10-14 16:40 x
忘れ去られたサブーカルチャーと思っていましたがまだ懐かしがる方方がいるのを知りましたので、小浜 奈々子達の近況をお知らせします。 歌ちゃん(小浜の本名による)とボタンの姉妹は元気です、しかし寄る年波、歌ちゃんは両膝人工関節、ボタンは胃の手術をしました。 昔の皆さんに会いたく思いますが他の方々は引き籠りが多いようです。 アンジー、てるほ、も出てきません。 今月終わりに外に出られる数人で思い出話の会をする予定です。 何方か浅草のロック座の山路 留美、浅草座の芦原 しのぶをご記憶の方がおいででしたら御連絡ください。
Commented by yumenonokoriga at 2012-10-15 10:14
コメントならびに貴重な近況のお知らせありがとうございます。ぽつりぽつり古本市なんかでもとめておいた資料が、退職後にこんなかたちになるとはお釈迦様でも御存知なかったのでは。あれこれと、ぽつりぽつりと集めた資料しかなく体系的な記述はできません。いわば落ち穂拾いのようなコラムですが、よろしくお願いします。
Commented by バンプ&グラインド at 2012-10-31 19:54 x
以前松永てるほさんとお店をしてらした潮千尋さんの赤坂のお店でお手伝いをした事が有ります。潮さんのお店には、日劇を懐かしむお客様も多く、映像を撮って持ってらしたかたもいらっしゃいました。潮さんは足立区の方でお店を開かれのですが今はどうなんでしょうか。日劇時代の貴重な楽屋での写真が沢山有りました。多くの引退された踊り子さんにお会いしてお話を伺いたいです。
Commented by yumenonokoriga at 2012-11-01 15:11
バンプ&グラインドさん
貴重な体験をなさっているんですね。当方は専ら文献を探しながら書いていますが、体験に基づく話など伺って見たいなあ。
Commented by バンプ&グラインド at 2012-11-01 19:17 x
バーレスクオタクでもあるので、私も資料を集めていましたが浅草の昭和20年代の新聞に、今の踊り子はなっとらん!みたいな事が書かれていて思わず笑いました。

潮さんの体験されたお話は面白いお話が多くて、ある地方の興行で、ショーの後みんなで楽屋でスキヤキをしてたら、その中にチンパンジーを連れた芸人さんがいらした。そのチンパン君が、人が見ていないうちにスキヤキのお肉全部食べちゃったとか、まるでコントです!
Commented by yumenonokoriga at 2012-11-02 12:32
バンプ&グラインド さん
おもしろいですね。いまとなっては貴重な逸話逸聞、微力ながら当ブログも少しは集めておきたいものです。昨年立ち寄った京都の古書店で炎美可さんのお兄さん(故人)の本を見て買ったのですが、思わぬ出会いに「オッ!」でした。