2013年 08月 10日
「女は下着でつくられる」
鴨井羊子(1925-1991)は戦後、白い質素な下着しかなかった時代にカラフルなスリップ、セクシーなガーターベルトなどを売り出して人気を博した人で、スキャンティの命名者としても知られる。
映画にはジプシー・ローズ、奈良あけみ、小浜奈々子といった錚々たる顔ぶれが出演している。昭和三十年代の前半はまだ女が下着のおしゃれをするのははばかられるといった雰囲気があった。作品は、下着の色は白でなければならないといった古い観念に対抗して下着をおしゃれで斬新なものにしようと志す人たちが新しい潮流を巻き起こす、というものだそうだが、わたしは未見で、長年見たいと願いつづけているけれどいまだに叶えられないまぼろしの映画である。
小柳詳助『G線上のマリア』にこのときのロケ風景の記述がある。
〈ロケ現場は華やかな風景であった。たくさんの風船に結びつけられた七色の、パンティ、スリップ、ブラジャーが空から舞いおりる。これを拾った男女がひきおこす悲喜劇。この空から下着がまいおりるシーンだけでも小道具から助監督まで連日連夜パンティやスリップを手に走りまわった。〉
スタッフたちは、はじめは下着も悪くないなあと思っていたが、そのうち食傷気味になり下着ノイローゼになりかけたそうだ。その裏事情はともかくミュージックホールファンとしてはこういう映画があるのはうれしく、しかも鴨居羊子の発案に戦前の「戦ふ兵隊」、戦後の「日本の悲劇」「戦争と平和」などで知られる社会派の亀井文夫が協力しているのもおもしろい。
昭和三十年代前半の亀井は砂川基地に取材した作品やマグロ漁民の生活、被差別部落の記録などの貴重なドキュメンタリー作品を発表している。いずれも硬派作品ばかりだが、他方でミュージックホールのスターを出演させた下着映画にもかかわっているのがほほえましい。
亀井の著書『たたかう映画』(岩波新書)は一九八七年の没後に編まれた回想記であるが、「女は下着でつくられる」について言及がないのが惜しまれる。