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夢の残り香~日劇ミュージックホールの文学誌

リタ・ヘイワースと松永てるほ

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 一九四六年公開のハリウッド作品「ギルダ」(チャールズ・ヴィダー監督)で、リタ・ヘイワースが演じたギルダは神話の女となった。
 男たちはギルダに狂い、魅せられた。魅惑の頂点が「手袋のストリップショー」と呼ばれるシーンだ。まんなかに大胆なスリットが入った黒いシルクのイブニングドレスを着たリタ・ヘイワースはナイトクラブのステージで「それはみんな彼女のせい」という歌に合わせて濃艶な踊りを披露しながら長い黒手袋を脱ぎ捨てる。まるでストッキングを引き下げるように。踊りを終えると彼女はもういっぽうの長手袋とネックレスを取って客に投げ、さらにドレスのジッパーをはずそうとして「ジッパーは苦手なの、だれか助けて」と男たちを淫らな夢に誘う。
 リタ・ヘイワースは「男たちはギルダと寝て私と目覚める」と言ったという。「ノッティングヒルの恋人」でジュリア・ロバーツが後朝のベッドでヒュー・グラントにこの言葉を語っていた。「ギルダって誰?」と訊ねる男に、女は「彼女の当たり役。男はベッドで夢を抱き現実の女と目覚めて幻滅する。あなたもそう?」と問いかける。
 幻滅するかどうかは別にして、夢の女であるギルダと生身のリタ・ヘイワースが異なるのはあたりまえだが、夢にとり憑かれた男はリタ・ヘイワースにギルダを見てしまう。
 ここでわたしは松永てるほが語った言葉を思う。
「男性に夢を与える商売ですから、きれいでなければいけないので、ずっと独身を通してきました。女優なら結婚して子供を産んで離婚しても、それは芸の肥やしになります。でも、ダンサーは違う。私は二号にはなりたくなかったし、高齢の母親もいましたので、結婚はあきらめていました」(藤原佑好「日劇ミュージックホール『ヌードダンサー』という人生」」「週刊新潮」二00八年三月六日号)
 リタ・ヘイワースにとってギルダとの分裂は当然だった。ところが松永てるほは現実の永井雄子との分裂を避けようとしている。その気持に胸は熱くなってもファンの夢の女として結婚を断念するなんて、それはいけないと叫びたくなる。ファンは一途な思いに深甚の感謝を捧げながらも、なによりも幸せを願っているのだ。
 さいわい彼女は永井雄子としてよき伴侶を得た。
by yumenonokoriga | 2014-07-25 08:14 | 日劇ミュージックホールの文学誌

いまはない日劇ミュージックホールをめぐるコラムです。

by yumenonokoriga
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