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「ヘレン滝の店」

a0248606_10351523.jpg 日劇ミュージックホールの艶めいたポスターや看板を手がけた画家としては小野佐世男や落合登の名前がよく知られている。そのひとり小野佐世男に『女・ところどころ』という絵入り随筆集がある。新書版で百五十円、文陽社というところから上梓されていて「フクちゃん」の横山隆一が「美人画」の名手であり「日本漫画史上の昭和篇で一番光っているのは」小野佐世男と推薦文を寄せている。奥付にもカバーにも刊行の日付がない。おそらく昭和二十七、八年ころの刊行だろう。
 ところどころにキャバレーやダンスホールの楽屋のスケッチや踊り子の姿が描かれているが劇場名やモデルの名前は挙げていない。なかで例外なのが「ヘレン滝の店」と題した短文。ヘレン滝は戦後一世を風靡したストリッパーの一人で、日劇小劇場、日劇ミュージックホールともに出演している。ただしミュージックホールのほうはダンサーとしての終焉期で短期間に終わった。
 小野佐世男の一文にはヘレン滝が有楽町界隈に開いた店とそこの賑わいぶりが紹介されている。その店は「有楽町の橋のたもとから教会の方に行き、その裏の柳小路」にあった。ついでながら色川武大『あちゃらかぱいッ』にもこの店が見えていて、銀座教会のすぐ裏、店の名は「長崎」とある。
〈ここはいつもにぎわって、浅草のレビュー子がにぎやかに飲んでいる。ヘレンさんの関係で、舞台の人が多い。脚のキュッーと美しいのが椅子に、いつもはちきれそうなイットを発散させている。舞台で見る踊り子さんも、こヽへくると、たヾビールを飲み、トンカツを食べ、なかなか別な魅力が発散してくる。〉
〈ヘレンさんは一ぱいのんだ御機嫌で、いつもお店をにぎわしている。こヽでは裸にならない。裸でサービスされてはこちらがこまる。二階からトントンとおりてきて「マアーいらっしゃい」とあの素晴らしい肉体美を、まじかに見せるのだから、おみせはすごくはやっている。〉
 いわずもがなの注釈を付けると「イット」はずばりお色気のことで、一九二七年製作クララ・ボウ主演のパラマウント映画に由来する。エリナ・グリーンの同名小説を原作とするこの映画は日本では「あれ」と題して封切られ、その名訳は世の喝采を博した。

by yumenonokoriga | 2012-09-10 10:37 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)