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「楽屋のぞ記」

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 表通りのきれいなところほど裏へ廻るといろいろごたごたがあるという。そんな一般的法則は承知はしていても日劇ミュージックホールのファンとしては一度は楽屋をのぞいてみたかった。
 そのむかしメリー松原が楽屋風呂に入っているとき何かまちがえて男が入ってしまい、気がついた彼女はすぐにパッと両手で乳房を隠したのだそうな。舞台では堂々とオッパイを出している彼女のしぐさに男は感激したという。
 楽屋なんかで着替えをしてるところへ誰か来るとあわてて隠しますよ、舞台へ出れば出すんですけどね、やっぱり・・・・・・とはヒロセ元美の言。
 舞台とは異なる踊り子の表情を一見したいと思うのは人情でしょう。
 一九五六年(昭和三十一年)に新潮社から刊行された佐藤弘人『いろ鉛筆』という本に「楽屋のぞ記」なる一文がありミュージックホールの楽屋風景が書かれてある。著者は理学博士で一橋大学教授、当時のいわゆる「粋人」のひとりで『いろ鉛筆』の前著『はだか随筆』は昭和三十年の大ベストセラーだった。
 昭和二十九年の暮れの二十九日、一橋大学の佐藤教授は関根松夫という方といっしょにミュージックホールの舞台を見たあと日劇の長谷川十四郎支配人の案内で楽屋に廻った。支配人は一橋大学の出身で、佐藤先生の教え子である。
 各部屋のドアには
 Attention! Gentlemen does not enter to this room.(It's a regulation.)
(その筋の御注意により、出演者の外、内外人共、この室への出入を禁止しますー支配人ー)
 という札がさがっていて、その下に踊り子の名前が書かれている。
 ここで佐藤教授は出入り禁止の札に臆せず、支配人に「部屋のなかをちょっと見せてくれませんか」といえば、支配人も仕方がないといったふうで、ある部屋のドアを叩いた。六号室、ノックの音がするとハーイと「妖声」の返事があって、ドアを半分あけにして出てきた女性がいる。見ると竹野美子だった。支配人は教授と同行の関根氏を紹介する。この関根氏を紹介しているあいだに佐藤先生は半開きのドアから中をのぞきこんだ。この瞬間を教授はつぎのようにしるしている。
〈二人のヌード嬢が鏡の前で、話をしながら「肉化粧」をしていた。中は狭いので雑然としていたが、赤色の衣装や、活花がパッと目を射て、陶酔のあとの翳が、いや妖気が甘く立ちこめて、私は軽い興奮を禁じ得なかった。〉
(写真は竹野美子、橋本与志夫『おお!ストリップ』より)

by yumenonokoriga | 2012-09-20 10:00 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)