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日比谷の地政学

a0248606_932497.jpg 日本劇場の跡地にはいまマリオンが建つ。松永てるほがマリオンなんか見たくない、こんなものがあるよりも日劇が建て替えられたらどんなによかったことかと語っていたがその気持は痛いほどよくわかる。
 いっぽう日劇ミュージックホールの移転先である東京宝塚劇場内の東宝演芸場の関係者にとってははなはだ迷惑な話であり、ゆゆしい事態だった。当時東宝演芸場のプロデューサーだった道江達夫『昭和芸能秘録』は演芸場の側から見たこの問題の貴重な記録となっている。
 ここで著者は日比谷、東京宝塚劇場とミュージックホールの相性というか適合性を一興業者として判断すれば、この移転は「考えられないこと」だったと書いている。その論拠を見てみよう。
 第一に、東宝劇場の大劇場では年間のおよそ半分が宝塚歌劇団の公演、あとの半分が長谷川一夫、山田五十鈴、森繁久彌、森光子、浜木綿子らを中心とする芝居で、どちらの客層ともミュージックホールの客層とは相容れない。とりわけ宝塚のファンには女子中学生、高校生も多い。こうした客層のあいだをぬって、ミュージックホールの切符を買いエレベーターに乗り込もうという客は「相当に無神経な人間か、会社や家に居られない連中ばかりであろうと思われる」とまで書いている。まあここのところはミュージックホールのファンとしては大いに異論のあるところでありますが・・・・・・。
 第二に、日劇前の人の流れと東宝劇場前のそれとはまったくその数が異なるという事情がある。有楽町から銀座、築地、晴海方面へ往復する人の流れに対し日比谷は帝国ホテルで行き止まりになるからその数は比較にならない。
〈ヌードを観る人は、通り掛かってブラリと入る。前売券を買っておいて、一カ月も前から予定日をたてて出かけてくる客はない。亦は地方から東京へ商用で出張した人が、東京駅か上野駅への列車の時間待ちに覗いてみようかということが多い。有楽町駅から日本一交通量の多い晴海通りを渡って、わざわざ足を運ぶのが、つい面倒になるので敬遠することになる。上得意の客だった駐留軍人の数も減っている〉。
 たしかに日比谷のミュージックホールは固定的なファンはともかく通りがかりの客を呼び込むにはまことに具合が悪い立地条件にあったのはまちがいない。

by yumenonokoriga | 2012-11-25 09:30 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)