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稲村隆正

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 鹿島茂『子供より古書が大事と思いたい』によれば、フランスの古書店の目録に珍品、稀覯本が紹介される際には記述の最後にはきまって「これはフランス国立図書館には納本されていない」という一言が付けられているという。かつてこの国で、検閲のための国立図書館への法定納本制度があったと知ればなおさら納本制度から外れた本の貴重さがわかるだろう。
 検閲制度下にはない日劇ミュージックホールのパンフレットではあるが、国会図書館での収蔵の有無を検索したところやはりなかった。もっともあったとしても図書館で眺めるのははばかられる。
 図書館収蔵でいえばヌードダンサーたちをいまに伝える写真集があり、写真家のなかでは稲村隆正(1923-1989)がミュージックホールやコルドンブルーの舞台写真を積極的に手がけており、その業績は一九七八年朝日ソノラマ刊『踊り子』や一九八三年朝日新聞社刊『昭和写真・全仕事 稲村隆正』などにまとめられている。また「アサヒカメラ」などカメラ雑誌のバックナンバーにもよくその作品が掲載されている。
 稲村は早大での先輩にあたる秋山庄太郎の秋山工房からスタートしたカメラマンで、先輩の秋山もときどきミュージックホールのスターを撮っていて、ジプシー・ローズが煙草をくわえた作品がよく知られる。また名取洋之助から指導を受けており「おまえさんの撮ったおんなの写真はどこか他の人の写真と違う。ほんのわずかだが違った角度からレンズをのぞいている」と評された。そしてこれがショービジネスの世界やポートレートなど写真の対象としての「おんな」に興味をもつ出発点となった。
 『アッちゃん』や『アツカマ氏』の漫画家岡部冬彦は、稲村作品についてエロティックであってしかも厳然として卑猥ではないと述べている。作品評はカメラマンの姿勢でもある。稲村自身は「写真は対象を必ず必要とするのであって、その対象から美しさを感じなければ、写真に表現しても美しさは得られないものです」と語っている。つまり写真家の個性はそのモデルに表れている。その意味から、このカメラマンを魅了した踊り子たちの素晴らしさを讃えよう。

by yumenonokoriga | 2013-04-05 11:44 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)