NMHパンフレット綺譚

a0248606_11325640.jpg
 フランス文学者で古書マニアとしても知られる鹿島茂は『子供より古書が大事と思いたい』で「財政的にはもう一冊も買えないどころか、すべての本を売り払いでもしないかぎり現在の借金地獄から抜け出せそうもない」なかであってなおフランスの古書店からカタログが届くとファックスのボタンに手が伸びるし、古書蒐集のために銀行に借金を申し込んでいると書いている。古書にかぎらず蒐集という行為には人をして狂気と中毒症状に陥らせる魔性がある。
 日劇ミュージックホールのパンフレットは新たなものが世に出ることはないし復刻もほぼ絶望的である。ないとなれば欲しくなるのが人情、そこで・・・・・・と思っても、もともと多数出ているものではないうえ愛好家は収蔵して容易には手離さないから古書市場には出回りにくい。
 ファンがせっせと劇場に足を運び、舞台の美女たちに酔い、見てのあとに人目につかぬよう持ち帰った門外不出、秘蔵のパンフレットを数十冊も抱いて古書店に売りに来るなんて光景は想像しにくい。そのばあいは持主によほどの人生観の変化、転換があったときだろうが、ふつうにはこの種の回心とか宗教的体験は頻繁にはないから出回るとなれば秘蔵家の死去がまずは考えられる。
 以下は古書店主の随想を集めた高橋輝次編『古本屋の自画像』の一編で、東京は古書いとうの伊藤照久さんの「チリ紙交換奇談」にある話。
 朴訥で古本屋と駆け引きしたりするのが苦手なチリ紙交換業のAさんがある日紳士服の誂の箱を十箱ほど伊藤氏のところへ持ち込んで来て、自室にしまっておいたものだが処分したいのであげるという。見れば「りべらる」「デカメロン」などのカストリ雑誌、別の箱には仙花紙の『バルカン戦争』『ファニー・ヒル』などの春本、さらに別の箱にはジプシー・ローズ、奈良あけみ、ヒロセ元美、小浜奈々子、アンジェラ浅丘などが出演していた日劇ミュージックホール全盛の頃のパンフや浅草カジノ座のパンフがつまっている。きわめつけは色鮮やかに摺られた枕絵数十枚。
 よく古新聞を出してくれる奥さんの亡くなった父親の蒐集品で、ものがものだけに棄てられず納屋の奥にしまっておいたのだが子供が出入りするたびになんとかしなければと思っていた奥さんは意を決してAさんに引き取ってもらったという。死蔵されるより新しい愛好家へ届くほうがコレクションにとっても亡き蒐集家にとっても幸せなのだ。奥さんに感謝申し上げよう。  
[PR]

by yumenonokoriga | 2013-05-15 08:55 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(2)

Commented by 秋山薫 at 2013-05-15 12:01 x
昔私はスポーツ新聞の日劇ミュージックホールの広告を集めていたのですが今はもうなくなりました。
Commented by yumenonokoriga at 2013-05-15 22:08
☆秋山薫様
先日は貴重な資料をありがとうございます。あの中にもスポーツ新聞の広告があったのではないでしょうか。