「初春狸御殿」

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 MGMのミュージカル映画黄金時代を振り返るアンソロジーの名篇「ザッツ・エンターティンメント」、そのPart3で案内役のジーン・ケリーが「もう二度と訪れない時代。しかし思い出とフィルムは永久に残ります」と語る。
しかし映画はフイルムに残せても舞台はそうはゆかず、それを見た人の思い出のなかにしか残せない。でもあまりその種の話をしていると団菊じじいの嫌味に陥りかねない。閉場してずいぶんと歳月が経つ劇場のことをあれこれ書く気持に嫉妬や羨望を抱かせたいといった気持は皆無だけれど、本コラムも悪趣味にならないよう心しておかなければならない。
 その舞台であるが、かつては日劇ミュージックホールの舞台を収めたVHSビデオがいくつか市販されていたからまったく片鱗に触れることができないわけではない。ただしそれも松永てるほ、朱雀さぎりがトップになって以後の話であり、アンジェラ浅丘、小浜奈々子以前となると映画の断片に見るほかない。
 まえに中平康監督、小林旭主演の「野郎に国境はない」を見たときスクリーンにアンジェラ浅丘の名前があって心ときめいた。キャバレーのヌードダンサー役で出演していて残念ながら前半で殺されてしまったけれど、それでも彼女が踊るシーンがあるだけでマニアには貴重で、まさに眼福をもたらしてくれたものだった。こんな出会いはたのしい。
 ビデオに黴がきていま手許にないのが惜しくてならないが、アンジェラ浅丘とともに一時代を築いた小浜奈々子には「初春狸御殿」という出演作がある。「狸御殿」は和製ミュージカルの定番で、近年では鈴木清順監督が「オペレッタ狸御殿」を撮っている。
 木村恵吾監督「初春狸御殿」は大映製作の時代劇ミュージカルで、市川雷蔵、勝新太郎、若尾文子ら往年の大映スターが総出演して繰り広げる軽快で明るく楽しい絵巻である。大映専属ではないトニー谷、和田弘とマヒナスターズ、松尾和子ら当時の人気者が共演しての顔見世も豪華であったが、わたしにはなによりもヌード界のクイーンと讃えられた小浜奈々子がセミ・ヌードのニンフ役で出ているのがうれしい驚きであった。
 フィルムに残る「もう二度と訪れない時代」の思い出である。
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by yumenonokoriga | 2013-09-15 05:26 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)