ある日京都で

a0248606_11342267.jpg
 定年退職を控えた二0十一年三月に私用で京都へ出かけた折り、以前から一度訪ねてみたかった善行堂という古本屋さんを訪ねた。店主の山本善行さんは先年評論家の岡崎武志さんと共著で『古本屋めぐりが楽しくなる 新・文学入門』(工作舎)を出していて、これがとてもたのしく、古本好きにはこたえられない本だった。
 たどり着いた小さなお店の棚は店主のシブイ趣味がもたらす味覚がやさしくほんのりと漂っている感じだった。古本だけでなく、山本さんの著書やそのお薦めの新本も何冊か置かれてあり、なかに『いまそかりし昔』というゆかしい書名(古語辞典の語釈で、いまそかりはありの尊敬語)が目を引いた。そこへ店主が親しいお客さんとおぼしき女性に「築添さんは平塚らいてうの孫にあたる方なんですよ」と話すのが耳に入った。『いまそかりし昔』には築添正生(ちくぞえ・まさみ)という著者名があった。
 「平塚らいてうの孫」と聞いたときわたしの耳は一瞬とんがっていたのではないかな。女性解放運動の元祖のお孫さんがヌードダンサー炎美可として日劇ミュージックホールにデビューしたとひところ話題になったものだ。ならば炎美可と『いまそかりし昔』の著者とはどういう関係なのか。わたしが即座にその本を買ったのは言うまでもない。
 巻末に遺稿集となった著者の詳細な年譜があり、一九四四年生まれの金属工芸家(金工家)には一九五0年生まれの次妹美可がいた。著者と炎美可が兄妹だったとしてまちがいないだろう。年表の頁を繰ると一九九九年の一時期著者はさまざまな重圧から家を出て東京の妹宅に滞在したとある。この妹が美可さんなのかもう一人の妹美土さんなのかはわからない。
 炎美可(写真)については「文藝春秋」が八十年代にはばたく各界期待の星、といった特集を組んだ際に、平塚らいてうの孫がステージ中央で踊る日、たしかそんなタイトルで彼女を採りあげていたおぼえがある。残念ながら彼女がトップスターとしてステージ中央で踊る前に劇場が消えてしまったけれど。
 ネットで見るに彼女は都立国立高校を卒業後アングラ劇団、黄金劇場に所属し、その後一九七七年三月にミュージックホールにデビューしている。
 たまたま訪れた京都の古本屋からミュージックホールに翔んだこの日はわたしの数奇な一日となった。
[PR]

by yumenonokoriga | 2013-09-20 09:15 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)