丸尾長顕、深沢七郎の義絶

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 深沢七郎は『楢山節考』を機に賞金、原稿料、上演料、レコードの印税、映画の原作料とそれまでとは比較にならない金銭を得る身となった。それを丸尾長顕は「夢のような大金」と書いている。しかし丸尾は「ボクは本当に彼から割り前を貰おうとは思っていなかった」「深沢がいくら金を儲けようとそれはそれでいい事だ。金をもってくるつもりがあれば黙ってもってくればいいのだ。そんなつもりがなければ黙って持ってこなければそれでいいのだ」と考えている。
 わたしはこの記述の裏を読んだり、思惑を忖度しようとは思わないから、ここは額面通り受け取っておこう。ところが丸尾を変心させた出来事が起こった。
 あるとき深沢は丸尾に「センセイはキリスト様みたいだなァ。いや全くキリスト様だ」と言ったという。丸尾がどうしてと質問すると「だってお金のことをちっとも言わないもの・・・・・・」との返事だった。これに丸尾はカチンと来た。彼にはキリスト様とほめ殺しをして金のことを上せぬようにするための予防線としか考えられなかった。
 そこで丸尾は関根庸子に「私もお礼を払ったから、あなたも払うべきよ」といった意味の話をさせた。丸尾はこの女弟子からお礼は取ってないから彼女のほうもとまどったにちがいない。深沢の反応は丸尾の予想を超えたもので、中央公論社の嶋中社長にこの話を持ち込んだ。嶋中社長からは丸尾に、深沢は心配せずともこちらで責任を持って育てる、その代わりこれまでのお礼として百万円出すとの話があった。丸尾は憤慨して取り合わなかったところ嶋中社長から再度、二百万でという申し出と「彼(深沢)も、丸尾センセイから学ぶものはもう何もないと云ってる」との話があった。ただし深沢は以前丸尾に十五万のシボレーの中古車を贈ったことがあり、その十五万は二百万から差し引くという条件が附帯していた。
 中央公論社としても深沢の背後に自分がついているよりも引き離したほうが得策と考えたのだろうと丸尾は言う。それにしても「これが十年間手塩にかけて、日夜彼のために苦心惨憺してきた人に云う言葉だろうか。深沢ってそんな奴だったのか」と丸尾は思う。以上が丸尾の側から見た破局の経緯である。
 ところがこの直後、中公側から丸尾に申し出た百万も二百万も吹き飛んでしまう大事件が深沢七郎と嶋中社長、中央公論社を襲う。「風流夢譚事件」という驚天動地の大事件である。
(写真はミュージックホールでで催された『楢山節考』受賞記念祝賀会。新海均『深沢七郎外伝』より)
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by yumenonokoriga | 2013-10-10 08:33 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(2)

Commented by saheizi-inokori at 2013-10-10 18:09
ひとすじなわではいかないなあ。
Commented by yumenonokoriga at 2013-10-11 14:12
あと数回、丸尾、深沢問題を追って行きます。ご一読いただければありがたいです。