虫明亜呂無

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 作家で映画、スポーツ、競馬などに詳しい評論家だった虫明亜呂無に「西から東から クラシック・ロードをゆく」というエッセイがある。雑誌「優駿」一九六七年(昭和四十二年)六月号に掲載されている。この年の天皇賞や桜花賞などによせて書かれた作品だ。
 このなかで虫明は、馬場に出てきたスイートフラッグという牝馬のちょっとギャラリーに目をやり、さも「なんでもないわ」といったように首を二、三度たてに振る表情をとらえており、その眼に、この馬は、いかにも、遠くの風景を見て、なにかに安心をえたようにあるいていると映った。それは「なんとなく、舞台の踊り子が踊りながら、ふと、観客席の反能をみて落つきをとりもどし、自分の踊りのペースにきちんと乗ってゆくしぐさ」「大好きな上月晃や、松永てるほの舞台」を思わせるものだった。
 さらにこの牝馬の体つきについても宝塚と日劇ミュージックホールのトップスターに繋げている。
 〈細く、鋭いことが、そのまま、肉のゆたかさの別の象徴のようであった。女らしいでれっとしたところがなかった。たぶん、そんなことが、なんの前ぶれもなしに、私に上月晃を想わせたのかもしれなかった。それからまた、舞台の下からみあげると豊満そのもののようにみえていながら、ごくちかよってみると、頬の線などが鋭利な刃物で削ったように直線的に走っている松永てるほを思わせたようであった。〉
 競馬に無縁な本コラムの筆者は、牝馬の姿から宝塚や日劇ミュージックホールのスターが思い浮かぶ虫明の発想と思考の回路にほほうと思うばかり。
 色川武大は競輪の選手を追って開催地から開催地へと旅するほどの本格派で、あの面白さを知るとあとは麻薬か変態性欲しかないんじゃないかなと語っていた。競馬に美女の姿を見、競輪に変態性欲一歩手前の歓楽を感じていた二人の作家の姿はいずれにも無縁だった当方をいささか後悔の気持にさせる。
 記憶に誤りがなければ虫明は松永てるほを讃える詩を書いていた。何で読んだのかさえ思い出せないが、たしか、美しい五月、その夜空には松永てるほが似合う、といった一節があったような気がする。できたら本欄に書きとめておきたい。どなたかご存知であればご一報ください。よろしくお願いします。
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by yumenonokoriga | 2013-11-25 10:48 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)