正邦乙彦と高清子

a0248606_1134848.jpg 永井荷風ごひいきの女優、踊り子の一人高清子はのちにジプシー・ローズのマネージャー、内縁の夫となった正邦乙彦の妻だった。もちろん法律上は正邦と高は離婚していないから、正邦とジプシーは十八年にわたって同棲したことになる。
 そのかん高は正邦の母と一つ屋根の下で暮らし、四人の子を育てている。彼女は戦前から荷風と親しく、戦後も昔なじみの仲だった。
坂口安吾が「この人には、変テコな色気があった」と述べていて、それはいかなるものかせめて映画を見てみたいと思いながら、まだ叶えられない。
 〈正邦と高清子は夫と妻という眼と、同じ役者としての眼との二つの眼で相手を見ていた。同業としての馴れ合いの面ときびしい批判、という相反するものを、お互に持っていた。うまくいっているときはふつうの夫婦の百倍も蕩けたが、状況が一変すると、妻が舞台人として一本立ちしてしている女性だけに、自分の意見を主張して譲らず、お互の確執は広がるばかりであった。〉
 小柳詳助『G線上のマリア』にある夫妻のありようである。
 ここへ昭和二十五年ジプシー・ローズが現れる。
 ジプシーの前に正邦はヘレン滝のマネージャーだった。小柳前掲書によるとヘレン滝に高清子が嫉妬を覚えたことはなく、またそれまでの正邦の浮気も一過性であったため、彼女の嫉妬もなかったらしいが、ジプシーのばあいはそうはいかなかった。これまで正邦が浮気をしていた女たちとは全然違ったタイプであり「若くてはちきれそうな肉体、それにくやしいけれど女の立場から見ても認めざるをえない美貌の持主」に心おだやかではいられなかった。
 『G線上のマリア』はとても優れた評伝で、わたしはこの労作を高く評価するものだが、ただ、ここにある高清子の感情の動きをどのように跡づけたのかは疑問であり、また不思議に思う。正邦には取材しているけれど高清子にはどうだったのだろう。
 彼女が孫の目前で心臓麻痺を起こして亡くなったのは昭和五十七年五月二十四日。この本の発行は同年十二月三十一日だから、彼女に直接取材するのは可能だったとしても。このノンフィクションのなかにある作者の思い込みのような書き方が気がかりなところである。
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by yumenonokoriga | 2014-01-15 09:23 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(3)

Commented at 2014-01-18 08:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2014-01-18 08:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yumenonokoriga at 2014-01-18 15:10
☆kawaさま
お知らせありがとうございます。対談の名手と正邦氏のやりとり、さっそく読んでみます。