人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

夢の残り香~日劇ミュージックホールの文学誌

マーカス・ショー余話

マーカス・ショー余話_a0248606_9384188.jpg
 マーカス・ショーが来日した当時のわが国の興行界はエノケン、ロッパのほかに大江美智子の女剣劇や松竹少女歌劇が人気を誇っていて昭和九年一月十三日のロッパ日記には「弥次・掛声の盛なること驚くべく、三階で女の声、『ターキー、ターキー』と言へば、又反対党が『ツサカ、ツサカ、オリエ、オリエ』と喧嘩だ」と水の江瀧子とオリエ津阪が男役の二枚看板だった松竹座の観客席の模様が記されている。国際劇場は昭和十二年の竣工だからこの時点での松竹少女歌劇団(SSK)のホームグラウンドは松竹座だった。
 こうしたなかでのマーカス・ショーの来日はずいぶんと話題を呼んだ。なにしろ日本人のレビューの踊り子のパンティが股下三寸などとお上から規定されていた時代に外人女性の金粉のヌードなのだから野口冨士男ならずとも若者の血はたぎっただろう。
 これについては古川ロッパも昭和九年三月十日の日記に書きとめているが「人数沢山ではあるが同じやうなものゝ繰返しばかりだ。感心するものなし」とまことに素っ気ない。
 そのころロッパはエノケン一座に対抗すべく徳川夢声、大辻司郎ら旧活動弁士や日活を脱退した小杉勇、島耕二、滝花久子、岸井明、それに渡辺篤、横尾泥海男、古谷久雄、関時夫、清川虹子といった喜劇人たちを糾合した劇団「笑いの王国」の座長を務めていた。彼のばあい観客としてよりも、劇団の主宰者として幕内からショーを見たうえでの判断だっただろう。あるいはむやみにエロティシズムには触れない大人の対応というべきか。
 マーカス・ショーにはのちに歌手また役者として活躍したダニー・ケイがいた。主な映画に『ダニー・ケイの天国と地獄』や『虹を掴む男』、『ホワイト・クリスマス』、『五つの銅貨』などがある。
 日劇でのショーの最中に停電になったことがあり、このとき脇役だったケイは咄嗟にローソクをつけてアドリブでローソクの踊りをして間をもたせたそうだ。機転と才能をうかがわせる若き日のダニー・ケイのエピソードである。このとき野口久光が客席にいた。いずれも和田誠『シネマ今昔問答』にある話しである。
by yumenonokoriga | 2014-06-20 08:35 | 日劇ミュージックホールの文学誌

いまはない日劇ミュージックホールをめぐるコラムです。

by yumenonokoriga
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31