バーレスク

 フランスにトリスタン・ベルナール(1866-1947)という粋人タイプの劇作家、小説家がいた。あるパーティで上流社会の令嬢がベルナールのあごひげに見とれているうち、たまりかねて、先生ちょっとおひげにさわらせていただけませんかと訊ねたところ、彼はにこやかに応えた。どうぞお気のすむまでおさわりください、けれどお嬢様、あとであなたのおひげにもちょっとさわらせてくださいよ、と。はじめ令嬢は何のことやらわからずキョトンとしていたが、まもなく気がついたらしく真っ赤になって逃げて行った。
 いかにも伝統的な喜劇やボードビルを継承、発展させ、軽妙な作風で時代の風俗、倫理を風刺したとされる人にふさわしいエピソードだ。
 日劇ミュージックホールの演出家だった岡田恵吉は『女のシリ・シンフォニー』でバーレスクについて「イヤ味に落ちず、程良きエロティズムと軽妙さを生命とし、軽口と肉体的表情によつてハッとする処迄見せるが決して汗のあとは見せない。だから見た後でイヤなものを見た様なオリが残らず、まことにさつぱりして気持がよろしい。表へ出ても思ひ出すと、クスッとやりたくなるが、いつの間にか忘れて了ひ、又のぞき度くなると云ふ様な代物が、バァレスクと云ふ不思議な宮殿なのです」と述べている。
 バーレスクについて心憎いほど結構の整ったこの文章はまた上のトリスタン・ベルナールの逸話に見られるエスプリとユーモアを分析し、解明してくれている。
 無粋な話をすれば、ベルナールの逸話に微笑むいっぽうで令嬢の「おひげ」を追っかけて雲雨の交わりに及んでみたいと願うのもまた男心で、バーレスクにはそうした欲望が渦巻く。
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by yumenonokoriga | 2015-08-20 11:49 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)