2016年 05月 31日
脚線美閑話(九)~アンクレット余話
たしかにオードリー・ヘプバーンのアンクレットは「慎ましやかな誘惑」である。けれどそれを見たフラナガンは引きちぎってしまう。その前段ではアーミン毛皮のコートの預け主が、アンクレットをつけてスペイン旅行から帰った妻に激怒している。二人の男のアンクレットの女にたいする反応は、それに魅了され犯罪にいたった「深夜の告白」の男と五十歩百歩でさほどの違いはない。
ここには普通の貞淑な女なら身につけることのない、特別にセクシーなアクセサリーというビリー・ワイルダーがアンクレットにたいし抱いていたイメージと感情が投影されている。アクセサリーのもつ妖しさ。そのイメージが正しいとか誤っているとかの問題ではなく、それほど性を刺激されたというほかない。
「深夜の告白」でアンクレットを知ったわたしのなかにもなにほどかビリー・ワイルダーが抱いていたイメージが存在している。
以下余話の余話。
過日、東西ドイツ統合がある庶民の家族に及ぼした悲喜劇を描いた「グッバイ、レーニン!」という映画を観た。なかで、東ドイツ生まれの主人公アレックス青年が心臓発作から昏睡状態に陥った母親のいる病院へ行ったところ、すでに女性看護師の白衣は膝上少しばかりの穏やかなミニスカートの西ドイツスタイルになっていて、それまで東ドイツでは見られなかった看護師の脚線にアレックスは高ぶってしまう。ベルリンの壁の崩壊は東ドイツの青年に脚線美の発見をもたらしていたのだった。