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2012年 08月 30日 ( 1 )

映画「如何なる星の下に」

a0248606_9325447.jpg いつだったか「女心は一筋に」という東宝映画を見ていたら池部良や岡田茉利子、久慈あさみなどとともにトニー谷が出演していて、そろばん片手に歌っているうちにバックに日劇ダンシングチームが登場し、ラインダンスがはじまった。
 その景を終えて楽屋へ引っ込んだトニー谷は誰かに電話をかけて、いま上と下のかけもちだからとても忙しいと口にする。下が日劇の大劇場、上がミュージックホールだからもしかして「上の劇場」も映らないかしらと思ったとたんカメラはそこに出演するトニー谷をとらえて、わずかな時間ながらミュージックホールがスクリーンに映し出された。
 高見順「如何なる星の下に」は戦前の浅草を舞台とする風俗小説の名作だが、これを豊田四郎監督は昭和三十年代なかばの銀座、佃島界隈に置き換えて映画化した。この措置に原作者はとまどったそうだけれど、いま観ると古風な心情をいだく登場人物たちの人間模様とともに佃神社附近の風景やいまはない堀割がなつかしい。
 原作で浅草のレビュー劇団に所属する小柳雅子は、大空真弓が扮した映画では東宝作品らしく日劇ダンシングチームの一員で、ここでは「下の劇場」の楽屋が撮影されている。
 そのうち雅子はダンシングチームを退団し、香港でショービジネスに従事するといって、男といっしょに日本を発つのだが、反対する家族にはそのわけを「舞台で踊りながら、いつかはワンサではなく前列に出られる幹部になろうと努力をしてきたわ。でもよく見ていたら舞台前列に進み出てもたいしたことはないの。ワンサと変わりないといってよいくらい。もっと大きな舞台で活躍しなくちゃだめ。このあいだなんかむかしスターだった人がバタ屋になって楽屋をまわっていたんだから」と語る。
 人権問題としてのバタ屋さんへの蔑みのまなざしはいま措いておこう。八住利雄の脚本のこの箇所はヘレン滝の話が基になっている。ヘレン滝はストリップ時代初期のスターで「上の劇場」に出演したこともあったが、のちに廃品回収業を細々とやり、やがて見守る者もないままにこの世を去ったという。
 映画「如何なる星の下に」の大空真弓のせりふは「上の劇場」にまつわる哀話だったのである。

by yumenonokoriga | 2012-08-30 09:35 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)