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2012年 10月 10日 ( 1 )

わがふるほん人生の輝ける一日

a0248606_11131657.jpg 二十年あまり以前だから一九九0年代のはじめ、平成の二年か三年のころだった。旅先の岡山市、丸善の二階で催されていた古書展をのぞいていて、収穫はないのかなとあきらめかけていたとき、とつじょ映画のパンフレットのコーナーにずいぶんと派手な赤い色の冊子が眼を引いた。
 A4判の赤い表紙は映画のパンフレットにしては雰囲気的に妖しく、近づいて見ると、その赤地には素敵なプロポーションのヌードの絵が描かれている。ミュージックホールのパンフレットが粗末な紐で縛られていて、数えてみると十冊、定価は二千円!一冊四五千円してもおかしくないしろものだ。
 なかでいちばん早いのが一九五三年(昭和二十八年)二月の発行で、これだけがA4判の三分の二ほどの小型、新しいのが六八年二月の発行。昭和の二十年代が二冊、四十年代が一冊、あとはすべて三十年代の公演パンフレットだった。
 パンフレットはすでに日劇小劇場のころから発行されていた。井上ひさし『本の枕草紙』によれば昭和二十五年に孤児施設を飛び出て上京した著者は日劇ダンシングチームのレビューでラインダンスを見て何度も生唾をのみこんだあと五階の小劇場でヌードを見て、将来はこんなところで働きたいと決意し、そのときのパンフレットをずっと後生大事に手許に置いてあったという。
 日劇の取り壊しが決まった一九八一年さる古書店の主人にこのプログラムを見せたところ「あそこのプログラムはもともと出まわらない上に、このたびのように閉場なんてことになると急に欲しいとおっしゃるお客がふえて、もう値段のつけようがありません。ましてや・・・・・・日劇小劇場時代のプログラムともなれば古書業界にこれまで出てきたこともない。国会図書館にもないような貴重品」とのたまったが、買値を二千円と口にしたのは余計であった。
ともあれそうした事情であってみれば、小劇場時代のものをふくむパンフレットを十冊二千円で入手したのだからそのよろこびやいかばかりかとご想像願いたい。
 昭和二十八年二月一日から四月十五日にかけての公演「桃源の美女たち」のパンフレットを見ると、カラー写真はまだない。ヌードに伊吹まり、メリー松原、R・テンプル、奈良あけみといった伝説上のダンサーを配し、ゲストは高英男、出演者の一覧には新谷登(泉和助)桃原青二(深沢七郎)の名もある。
 このころの入場料は普通席が三百円、指定席が四百五十円だった。

by yumenonokoriga | 2012-10-10 11:16 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)