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2013年 06月 15日 ( 1 )

公演リスト

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 寺田寅彦が一九三0年(昭和五年)十一月の「渋柿」に寄せた短文のなかで、新宿の武蔵野館で観た「トルクシブ」というソビエト映画について、スクリーンの中央アジアの広い野を行くおびただしい数の綿羊の群れと現実の新宿のたいへんな混雑とが二重写しになったといった感想を述べている。。ありがたいことに武蔵野館については新宿歴史博物館『キネマの楽しみ~ 新宿武蔵野館の黄金時代~』に大正九年から昭和十年までの上映記録が収められている。
 そこで寺田寅彦の記述を確認するために本書を開くと昭和五年十月八日から十四日にかけて上映されていて、ヴィクトル・トウリン監督、トウルクシブとシベリアをつなぐ鉄道工事の記録映画、一九二九年製作と説明がある。
 日劇ミュージックホールについては『theNichigeki Music Hall』に昭和二十七年三月の開場公演「東京のイヴ」から昭和五十七年三、四月公演「エロティカルグラフィティ」までの三十年にわたる公演記録が掲載されている。
 〈私にとって、ダニー・ケイの「虹を掴む男」を初めて観たのは日劇、春川ますみやトニー谷を見たのは日劇ミュージックホールだった。これは信じられないかも知れないが、初老の田谷力三(往年の浅草オペラの大スター)が「恋はやさし 野辺の花よ」を歌ったのも日劇ミュージックホールだった。和製グルーチョ・マルクスの永田キングを見たのもここだ。〉
 先日読んだ小林信彦『私の東京地図』(筑摩書房)の日比谷・有楽町の章に上の一節があった。公演記録によると田谷力三は昭和三十一年十一、十二月の「三つの饗宴」と昭和四十九年三、四月の「春に舞う妖精たち」にゲスト出演しているのが知れる。ヌードは前者ではトップの伊吹まり代にメリー松原、奈良あけみ、ジプシーローズ、春川ますみが、後者では松永てるほがトップで舞悦子、浅茅けい子、水原まゆみ、岬マコ、高見緋紗子がつづく。著者が言っているのは「三つの饗宴」のほうだろう。
 こうして記録はとても重宝だし、貴重な資料である。残念ながら『theNichigeki Music Hall』以後、つまり昭和五十七年五、六月公演から閉場する昭和五十九年三月までの記録はない。劇場を設置運営した東宝が社史編纂する折りにはぜひこの欠落を補ってほしいものだ。できれば日劇小劇場の記録とともに。

by yumenonokoriga | 2013-06-15 08:44 | 日劇ミュージックホールの文学誌 | Comments(0)